FX(為替)相場の見通し
今週は米国が3連休の後、欧州の財政問題に対する投資家心理の改善やオバマ米大統領の景気対策に対する期待を背景に株価の上昇が先行した。予想外のスイス国立銀行(SNB)のスイスフラン売り介入もあり、EUR/CHFなどを筆頭に対スイスフラン通貨は軒並み急上昇した。その後もスイスフランは主要通貨に対して緩やかに売られ、スイスフラン安が続いた。同じく通貨高に苦しんでいる日本の通貨当局にも介入期待や、金融政策決定会合での追加緩和期待があったが、見送る結果となり一部投資家を失望させている。
日本の通貨当局の追随介入見送りに対し、安住財務相と五十嵐財務副大臣がスイスと日本は違うと強調した。五十嵐副大臣は「日本が通貨安戦争を仕掛けることはない」「日本は世界で3 番目の通貨と経済規模を持っており、自由市場を尊重し、世界の金融センターになるのが生きるべき道のひとつ」とまで述べた。また、9日から10日にかけてG7財務省・中央銀行総裁会議が開催されることも考慮すると、G7前の介入はどうしても避けなければならない理由があったと思われる。
今回のG7会合での主要議題は、欧州の債務問題の解決に向けた方策や欧州の銀行の資本増強などである。ただし、SNBのなりふり構わない自国通貨売り介入について議論される可能性はあるが、為替(FX)は主要議題とはならない見通しと伝わっており、日本の通貨当局がSNBに追随しなかったこともあり、マーケットへの影響は限定的と見ている。
ユーロ圏では、ドイツの憲法裁判所の決定(ドイツの連邦憲法裁判所はユーロ圏救済基金へのドイツの参加は違憲との訴えを退けた)やイタリア上院が緊縮財政案の可決(下院でも通過の見通し)など不安を和らげる材料があったが、一方で9日はギリシャ国債のロールオーバーの自主的な申込期限となっており、90%を上回る参加率がギリシャに対する第2次支援の条件となっている。もし参加率が90%に届かなかった場合、どのような措置が講じられるかについては、今のところユーロ圏当局者から何の示唆も無く、この問題を巡る情勢は極めて不透明である。さらに、ドラギ次期ECB総裁がECBによる債券買い入れに対して消極的な発言をしており、イタリア・スペインの国債利回りが上昇し、ユーロ圏の財政懸念を再燃させかねない。
8日のECB理事会後の記者会見でも、ユーロ圏経済は「特段に高い不確実性と従来よりも強い下方向リスク」に直面していると述べ、ECBスタッフによる最新の見通しでも今年と来年の成長率予想を下方修正した。マーケットでは、将来的な利下げの可能性と受け止めており、通貨ユーロの下落余地はあると思われる。
米国でも米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長の講演で、追加の刺激策に関する具体的な示唆がなかった。講演内容は8月26日のジャクソンホール講演の要点を繰り返しただけであり、具体的な景気浮揚策を示唆しなかったため失望させられた。投資家のリスク回避姿勢が強まる際のドル上昇となったが、今後は欧州問題も含め懸念が強まる際のドルや円買い・クロス円の下落の可能性に注意が必要となろう。